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1. 警告
ATENTION, PLEASE 1997
この作品は、私が5年間 勤めた会社を辞めて、版画制作に戻った後にできたものである。京都の伝統的な会社で ...
1. 警告 ATENTION, PLEASE
1983 52 × 36 cm
この作品は、私が5年間 勤めた会社を辞めて、版画制作に戻った後にできたものである。
京都の伝統的な会社で働くという貴重な経験をさせてもらった5年間は、短いながらも私の人生の中で多くを学んだ時期だった。
職場で最も感心したのは、同僚たちの会社に対する献身ぶりだった。仕事は極めてハードだったが、人々は皆、仕事熱心で、楽しく働いていた。
もうひとつ印象に残ったのは、物質主義に対する彼らの信奉ぶりである。中にはきわめて快楽主義的な人生観をもつ人もいて、
その生き方には驚きを通り越して心配を感じたものだ。そこでできたのがこの作品である。人生に対する別の観点から、物質主義に対する警告をこめている。
作品の中の文章は私自身のメッセージである。文字は、絵とは別の版木で、硬いホウノキに彫っている。 メッセージの訳文は以下の通り。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
警告
あなた方はどう考えているのか。
なぜこれらの偽りを許し続けるのか。
その代償は何か。
なぜ満足しているのか。
愚者として生き、自らを病ませ、 そして死んでいく…。
死がすべてー そう考えることが最大の誤り。
生きることの真実を知りながら 欲と怖れに負け、
生命とこの地球を無駄にする。
動くもの、命あるもの、行く手をはばむもの
すべてに対する暴力行為。
愚かにも、ペテン師の嘘を信じて苦しみ、
その苦しみがどこからきているのか 知らないふりをする。
悲嘆にくれ、自らがたくみに作り上げた 運命を悔やみ、
そして 偽りの最後の快楽から抜け出し 救いを求める。
誰に…
愚者の終末。 それはやがて来る漆黒の闇の中で
見えも、聞こえも、感じもしない。
そして肉体もない…
永遠の孤独。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(2007.11 wrote)
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2. のどが乾いた二匹の魚
Two thirsty fish 1996
この作品は1996年、一ヶ月にわたるヨーロッパ・スケッチ旅行からもどった直後に ...
2. のどが乾いた二匹の魚Two thirsty fish
1996 24 × 35 cm
この作品は1996年、一ヶ月にわたるヨーロッパ・スケッチ旅行からもどった直後にできたものである。2匹の恋する魚が載っている皿は、
アテネの博物館で観た古代ギリシャの皿の写し。魚の右上に記されているのは、ギリシャ、ローマの神々の名前であるが、頭文字が意図的に省略されている。
この意味不明の文字列に混じって、英語の単語が5つ挿入されていて、恋人たちにお馴染みの一つの文章を構成している。
バックの薄灰色のやわらかなテキスチャーには作者自身、大いに満足しているが、これは版木に絵の具を載せるときに、糊の量をかなり減らすことによって簡単に得られる効果である。
(2008.01 wrote)
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3. 重荷を背負った一日
It was one of those kind of days 2008
最新作。今日はとてもつらい一日だった。けれども ...
3. 重荷を背負った一日 It was one of those kind of days
2008 20 × 30 cm
最新作。今日はとてもつらい一日だった。けれども主人公の顔からは、そのことはうかがわれない。
いったい何がおこったのだろう?その手がかりを得るには、作品をじっくり観察し、「スタイナー版画」独特のシンボリズムに照らし合わさなければならない。
彼女は平静を保っているけれど、周囲は混沌としている。これと同じようなことを、家庭や、職場や、旅先などで経験し、彼女と同じように感じている人もいるだろう。
心配や苦労が押し寄せ、状況は混乱のきわみ、そして周りはすべて異常なことばかり―これが試練でなければ何であろう。にもかかわらず、嵐が吹きすさぶ中、
彼女は平静を保っている。「本当の大人」のあるべき姿とは、このようなものか。
(2008.03 wrote)
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4. 判断できない状況
INDECISION 2008
この作品のタイトルは、私にしては珍しくなかなか思いつかなかった。いつもなら ...
4. 判断できない状況 INDECISION
2008 29 × 37 cm
この作品のタイトルは、私にしては珍しくなかなか思いつかなかった。いつもなら作品を彫っているときに、タイトルも絵の下に彫って入れているが、
今回は作品ができ上がった段階でも決まらなかった。ようやく、このような自分をあらわしているようなタイトル「判断できない状況」に決めた。
「この作品の意味は?」と、いつものように聞かないで欲しい。自分にも分からないからだ。
「旗の下に立っている人物はだれ?」「旗は何を意味しているの?」「誰も坐っていない椅子は?」「イーゼルの上におかれたポスターは?」「左にある石の手水鉢は?」
すべてが、「さあ…」である。でもはっきり言えることは、雲の形が自然でないということ。横にではなく、縦にたなびいている人造雲。
最近の私の作品によく出てくる遠い未来の風景である。今から何十年か、何百年かの後に人類が経験する世界に対する私のコメントである。
(2008.07 wrote)
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5. ヤム・イドーレムはあなたも美人よと思っている
Yam-Ydolem thinks you are beautiful, too 2007
この作品の主人公は「ヤム・イドーレム」。奇妙で、不思議な外見をしていますが ...
5. ヤム・イドーレムはあなたも美人よと思っている Yam-Ydolem thinks you are beautiful, too
2007 26 × 30 cm
この作品の主人公は「ヤム・イドーレム」。奇妙で、不思議な外見をしていますが、親切で、愛らしく、寛大です。だれの人生にも、
ときにサーカスのように奇想天外で、信じられないことが起こることでしょう。でも彼女はどんなときにも、出会う人すべてに対して心を開いています。
人々と共有するあらゆる瞬間を慈しみ、楽しむために。
ヤム・イドーレムの別名はMELODY MAY「五月のメロディー」、大の音楽ファンです。
(2008.10 wrote)
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6. ジムでもない、ボブでもない、ジョンでもない
Not Jim, Not Bob, Not Jon 2009
私の作品作りはインスピレーションによるところが大きい。この版画は ...
6. ジムでもない、ボブでもない、ジョンでもない Not Jim, Not Bob, Not Jon
200 10 × 25 cm
私の作品作りはインスピレーションによるところが大きい。この版画はそのいい例である。突然、三人の顔があらわれ、
さらに「ジムでもない、ボブでもない、ジョンでもない」というタイトルが頭に浮かんだ。これは私にしては珍しいことである。タイトルに関しては、
作品の意図ができるだけ伝わるように、いつも頭をひねっているからである。だから今回は、私自身ちょっと驚いている。
イメージもタイトルも意味不明…彼らがジム、ボブ、ジョンでないとすると、いったい誰なのだろう?
(2010.02 wrote)
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7. 世の中の観察
Looked out upon the world
2010
2010年春に制作した作品。私にとって最も関心のあるテーマである「予想しうる未来の世界 ...
7. 世の中の観察 Looked out upon the world
2010 36 × 52 cm
2010年春に制作した作品。私にとって最も関心のあるテーマである「予想しうる未来の世界と、その状況を扱った作品です。
「未来の世界」では、木々が現在よりももっと人間に近い気持ちをもち、性格ももっとはっきりとしています。けれども人間たちはほとんど
変わっていません。作中には、船の窓から顔をのぞかせてこの世界を観察している人物が描かれています。その人は自分が発見したことに
かなり驚いている様子です。髪が逆立っているからです。でもそれはもしかすると、海からの風になびいているだけのことかもしれません。
そして、彼の目はとても小さく作られています。それは見ることが「目」を通してだけでなく、ほかの感覚を通して―たとえば心―も可能だということの示唆です。
でもそれは確かではありません。旧式のものや壊れた獲得物、沈められたり、柵のなかに入れられたりしています。さらに空っぽの囲いがひとつ用意されていて、
不要なガラクタの山ができるのを待っています。
(2010.11 wrote)
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8. 大きなソファ
A big sofa
2011
1950年代を思わせるごくありふれたリビングルーム。一人の人物が ...
8. 大きなソファ A big sofa
2011 45 × 30 cm
1950年代を思わせるごくありふれたリビングルーム。一人の人物が大きなソファに座っている。おそらく壁に掛っている絵を見ているのだろう。
この作品に込められているメッセージは、この絵のなかにも見られる。座っている人物の足と、その傍にあるほとんど枯れている木が、そのメッセージを象徴している。
そして、木はもう一度、 生きようとしているのである―いわゆる「再生」を望んで。天井に近い棚の上の箱は、ほとんど誰の手にも届かない。その近くには太陽の形をした天井灯がある。
一見、無邪気でかわいいイメージだが、 実際は緊張感が漂う作品である。17色。エディション:5部。
(2011.09 wrote)
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9. ママと一緒
With Mom
2011
夕暮れどき、街から家へと向かう少女とママ。少女はママと一緒なので ...
9. ママと一緒 With Mom
2011 52 x 37 cm
夕暮れどき、街から家へと向かう少女とママ。少女はママと一緒なのでルンルン気分―そして安心感に包まれている。
周りにあまり見るものがないので、彼女の頭はおのずと子供らしい空想や想像で膨らんでいる。
その彼女の思いは、天真爛漫さや純粋さを象徴する金や白の 色模様となって空中に浮かんでいる。
(2015.06 wrote)
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10. "RU-4-T, 2/IC-Y"
2014
これは私の作品の中で最も理解しにくいものだろう。継続している「人間の遠未来」を ...
10. RU-4-T, 2/IC-YRU-4-T, 2/IC-Y
2014 36 x 53 cm
これは私の作品の中で最も理解しにくいものだろう。継続している「人間の遠未来」を扱ったシリーズのひとつ。動物のような形をした船が、
荒れた海原を航行しながら、水面直下の青色の魚を捕獲している。捕獲された魚は、船の一部である灰色の渦巻き状の工場で処理される。連なった窓枠から
船の中に乗客がいるのが分かる。 さぁ、お茶の時間だよ。 が突然、銀色の小型戦闘機の一群が船を攻撃してきた。 すわ、一大事! 魚どころではない。お茶どころではない。
作品のタイトル「RU-4-T, 2 / IC-Y」は、機械言語。 解読すると、「Are you for tea, too? Oh, I see why.
(君もお茶かい? あ、そうか、それどころじゃないね)」。 この時代になると、文章も記号化しはじめるのである。
(2015.09 wrote)
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11. 創世記:第8日目
On the eighth day
2001
As for my print, On the Eighth Day, I was ...
11. 創世記:第8日目 On the eighth day
2001 59 × 83 cm
As for my print, On the Eighth Day, I was inspired to make such a work for reasons at the time I did not know.
This often happens to me now in my more experienced years. Then, a few months later, 9/11 happened, and the meaning of the print became clear.
A renegade offshoot of a large, organized religion (typified by the three religious symbols on the bug's forehead), acting out of fear and misunderstanding,
caused the death of thousands, and property destruction in the millions of dollars. Its believers are captives of fear and lies (the faces in the eyes),
yet they cannot escape if they wanted to. The insect, a life-form I actually have liked from childhood, was not chosen knowingly by myself;
it came almost of its own. The cosmos "windows" on the bug's body represent the vast reach of evil in the material world.
The two towers coming out of the bug's head are the twin towers. The title refers to the Bible's first chapter, of course,
where God creates the heavens and the earth, both spiritually perfect and harmonious. Only after God's seven day's worth of work was done,
so to speak, did evil have a chance to show itself. God certainly did not make evil or error. Man, misinterpreting God's work, imagined materialism,
and has suffered from this thereafter. So much of my artwork dwells on this theme and related themes.
On my homepage there are shown some prints in this venue; mostly they deal with what our future may look like, for good and for bad.
(2016.06 wrote)
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12. 灰色の耳
Gray Ears
1980
おそらくわたしの作品の中で最も重要なものだろう。描かれているのは少女だが ...
12. 灰色の耳Gray Ears
1980 45 × 37 cm
おそらくわたしの作品の中で最も重要なものだろう。描かれているのは少女だが、これはわたしの自画像でもある。
この作品の鍵を握るのは、少女が指さしている右下の小さな物体、亡くなった人の戒名が書かれている卒塔婆である。
電車やバスに乗っているときや、列に並んで順番を待っているときなどに、まわりの人の話を盗み聞きしてみると、ほとんどの場合、 友人の死の話や病気の話である。
「死」と「病気」は人がもっとも好む話題のようであるが、わたしの耳はうんざりして灰色に変わるのである。
(2020.05 wrote)
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13. あだ花
Idle flowering
1983
肉汁ソース容器の中から奇妙な花が生えている。容器の上部には裸の人々が遊んでいて ...
13. あだ花Idle flowering
1983 36 x 53 cm
肉汁ソース容器の中から奇妙な花が生えている。容器の上部には裸の人々が遊んでいて、そのうちの幾人かは下段の赤い部分のなかに、
転落している。ノコギリの歯のようなものの下には刻まれた断片が…。一体、何が起こっているのだろう。官能の世界に生き、
セックスにうち興じ、貪欲さを追求するなら、このような報いを受けても驚くべきではないのだろう。
花に巻きついている赤い糸は、15世紀の禅僧、一休宗純の愛欲の赤い糸「紅糸線」に由来している。
(2020.07 wrote)
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14. 未熟な生体
Immature of the Species
1981
「灰色の耳」と対をなす作品であるが、「死」とは無関係である。目を凝らしてみると ...
14. 未熟な生体Immature of the Species
1981 55 × 46 cm
「灰色の耳」と対をなす作品であるが、「死」とは無関係である。目を凝らしてみると、たくさんのハートが描かれているのに気がつくだろう。
つまり作品のテーマは「愛」。この鳥はまだ十分に成長していないため、純粋に愛を信じている。これもやはり自画像だろうか?
そうは思わない。この作品は、知られざる愛の本質についての一般的なメッセージである。
(2020.10 wrote)
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15. リッチ君のウサギ
Richie’s Rabbit
1984
わたしは卯年生まれなので、このうさぎは自画像である。耳から伸びている赤い触角が ...
15. リッチ君のウサギRichie’s Rabbit
1984 37 × 45 cm
わたしは卯年生まれなので、このうさぎは自画像である。耳から伸びている赤い触角が我ながら気に入っている。
耳がキャッチできる以上の情報を得ようとしているかのようである。
(2020.10 wrote)
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16. この券を捨てるなかれ、 何百万もの値打ちがあるよ。
Save This Ticket, It Could be Worth Millions
1986
この作品は、命の大切さを訴えるために作ったものである。制作当時、日本における自殺率が ...
16. この券を捨てるなかれ、 何百万もの値打ちがあるよ。Save This Ticket, It Could be Worth Millions
1986 45 × 65 cm
この作品は、命の大切さを訴えるために作ったものである。 制作当時、日本における自殺率が上昇したことを報道する新聞記事を多く目にした。
命を捨てるのはあまりにももったいない、どんな困難にも解決法はあるということを言いたかった。同時に、
多くの人が自らの生き方を選択するのではなく、世の中の流れに身を任せていることに気がついた。このような態度は共感できない。
よく言われるように「人生をダンスのように」生きることは可能である。この作品に描かれているダンサーは、みんな同じ服を着ている。
人はそれぞれ違うけれど、幸せのダンスはただひとつだからである。
タイトルにある「何百万」は、必ずしもお金のことではなく、より豊かで充実した人生のこと。
作品の背景には、さまざまな宗教の聖堂が灰色のシルエットで描かれている。問題を解決する手がかりのひとつは、
精神性に目をむけることであろう。ホロコースト生存者であるアリス・ヘルツ=ゾマーが「いつも楽観的でありなさい。
微笑みなさい。笑いなさい」と言っていたように。彼女は110歳で亡くなるまで、この言葉通りに生きたのである。
(2020.07 wrote)
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17. 好きなジョイント
My Favorite Joints
1983
「ジョイント」という言葉の遊び。英語の「ジョイント」には多くの意味がある。ここでは ...
17. 好きなジョイントMy Favorite Joints
1983
「ジョイント」という言葉の遊び。英語の「ジョイント」には多くの意味がある。ここでは、結合、つなぎ目、ちょうつがい、
関節、大きな肉片、節、割れ目など、私が好きなジョイントだけを取り上げて視覚化した。ジョイントにはほかにも意味があるけれど、好きではないので、入れていない。
(2020.07 wrote)
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18. 聖ジョージとドラゴン
St. George and the Dragon
2009
この作品は、他者の作品や題材を模倣して現代風にアレンジするという手法を応用した ...
18. 聖ジョージとドラゴンSt. George and the Dragon
2009 51 × 36.5cm
この作品は、他者の作品や題材を模倣して現代風にアレンジするという手法を応用したもの。模倣は一目瞭然だったり、さりげなかったりするが、この作品の場合は後者である。
「聖ジョージとドラゴン」は、西洋絵画のなかで繰り返し描かれている題材である。そこで、わたしも自分なりの「聖ジョージとドラゴン」を作ることにした。アトリエを見回すと、
テーブルの隅にペーパータオルのスタンドがあった。縦型の金属の棒にペーパータオルの芯が刺さっている。まるで剣がドラゴンの身体を縦に突きぬけているようだ。
聖ジョージがドラゴンを殺したときもこのような構図だったのではないだろうか。特定の宗教や時代と関わりをもたせないように、背景には複合的なモチーフを配した。
(2020.12 wrote)
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19. ノーベル博士の理論
Nobel’s theory
1988
ノーベル博士は、自分が発明したダイナマイトは世界を破滅させるほどの威力があるため ...
19. ノーベル博士の理論Nobel’s theory
1988 50 × 65 cm
ノーベル博士は、自分が発明したダイナマイトは世界を破滅させるほどの威力があるため、使われることはないだろうと考えた。しかし実際はその逆で、多くの国が敵国を打ち負かすために利用できると考えた。敵国も同様である。この利害関係は徐々にエスカレートし、原爆の製造へとつながる。この作品はその結末を描いている。
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20. ところでポンティウス
By the way, Pontius
1989
この作品には、身の回りで起こっている本当に大切な精神的なことに気が付かないで ...
20. ところでポンティウスBy the way, Pontius
1989 50 × 70 cm
この作品には、身の回りで起こっている本当に大切な精神的なことに気が付かないで、人生の意味を無視することに対する批判がこめられている。ポンティウスと友人は、キリストの磔について話している。作品の中央に空摺りで表わされているイメージは、かいば桶のなかにいる赤子である。私たちが理解すべき人生のもうひとつの側面を表わしている。
<作中の文章>
「ところで、ポンティウス、キリストの磔は面白かったかい?」
「くそ、行きたかったけど、忙しくってさ。
女房の親戚がやってきたもんだから、清水寺や平安神宮に連れてって、
それから、傘がいるって言うから、阪急百貨店にも行ってさ〜。
でも磔はうまくいったそうじゃないか。
さほど期待していたわけじゃないけどね。
結局は何にも変わらないのさ。
現状維持、そうじゃないかい?」
「同感、同感、ポンティウス。
いくら新しい考えが生まれたって、それで車が売れるわけでもないしね。
ビール、もういっぱいどうだね?」
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21. 平和の叫び
Peace, peace
1990
二色だけの大き作品であるが、イメージと作中の言葉にインパクトをもたせている。ここでは ...
21. 平和の叫びPeace, peace
1990 77 × 55 cm
二色だけの大き作品であるが、イメージと作中の言葉にインパクトをもたせている。ここでは政府や指導者たちの偽善が非難されている。かれらはものごとが順調にいっているときは、公衆の面前で良いことを言うが、私的な場や、状況が思わしくなったりすると、まったく別のことを考えたり、言ったりする。そして「正しいのはわたしで、間違っているのはおまえだ」と妥協することはない。そうなると、結果は破壊でしかない。
<作中の文章>
「平和を!平和を!」
われらはかく声高に叫び、祈り、語り、エッセイを書き、
思案し、論議し、予測し、法をつくり、
絵画で、彫刻で平和への愛を表明した。
そのとき一片の怪しげな雲が太陽をかげらした。
たちまちわれらは恐怖にたじろぎ、憎悪に顔を染め、腹を突き出して
声高に叫んだ。
「武装せよ!」「戦え!」
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